名古屋の街を、そっと記録する。

CATEGORY

カテゴリー

Local Stories and Daily Life from Nagoya

Kotonoha

角角然然・阿部浩貴さん ー 結び直していく、その先へ

手と手を結ぶから、おむすび。

すべてに意味がある。

「おにぎりじゃなくて、おむすびなんですよ」

そう言って、阿部さんはやわらかく笑った。

言葉の意味。
日々の感覚。
人とのつながり。

ひとつひとつを丁寧に結んでいく姿勢は、
この場所のあり方にも、どこか重なっている。

2024年1月、
覚王山駅からほど近い場所に
生まれたおむすび屋、
「角角然然(かくかくしかじか)。」

ここは、ただのおむすび屋ではない。

人と人をゆるやかに結び、
食を通して、それぞれの暮らしが交わる場所だ。


Kotonohaのロゴ

言葉をすくい取り、手渡していく──

Kotonohaでは、
名古屋に息づく人の声や温度を通して、
街の輪郭を描いていきます。

今回の舞台は、名古屋・覚王山。

美容室「KOKOKARA Hair」のオーナー・美容師として
人と向き合う仕事を続けながら、
新たに「角角然然(かくかくしかじか)」
を立ち上げた阿部浩貴さん。

その言葉を通して、
これまでに結ばれてきたものと、
これからのあり方を見つめていきます。


誰かのために働くということ


KOKOKARA Hairでお客様の髪を整える阿部浩貴さん。

陶芸を営む家庭に生まれた阿部さんは、
幼い頃からものづくりが身近にあった。
形のないものを、手でつくり出す感覚は、
自然と身体に残っていったのかもしれない。

専門学校を卒業し、
美容師としてのキャリアは東京から始まった。

けれど、知り合いのいない街での暮らしには、
どこか孤独があった。

「正直、美容師という仕事が向いているのかわからなかったんですよね」

少し視線を落としながら、そう振り返った。

東京での生活は長くは続かなかった。

違和感を抱えながら名古屋へ戻り、
再び美容師として働きはじめる。
21歳で現場に立ち、23歳で店長に就任した。

転機は、26歳での独立だった。

店の看板のもとで築いてきた関係も、
独立すると同じようには続かなかった。

それまで関わっていた業者から
「お付き合いできません」と言われ、
ひとりで立たなければいけない状況になる。

「一気に、ぽつんとした感じでしたね」

美容師として働く阿部浩貴さんの施術風景。

そんな中でも、
変わらず通い続けてくれたのはお客さんだった。
独立準備中に働いていた店にも足を運び、
指名してくれた。

その存在に支えられながら、
少しずつ準備を進めていった。

「それまでは自分のことばっかり考えていたけど。
来てくれるお客さんが喜んでくれたらいいなって思えるようになりました」

そう話しながら、ふっと表情がやわらぐ。

仕事の軸が、「自分」から「人」へと移っていった。


人と向き合う中で、選んできたかたち


KOKOKARA Hair 御器所店の外観。

美容師として働く中で、薬品を扱う日々のなか、
アトピーにも悩まされてきた。
その経験が、身体や素材への意識を変えていった。

「身体にとって無理のないものを選びたい、
っていうのは自然と出てきました」

独立を考える中で、オーガニックという選択に行き着いた。
そして、その考えをかたちにするように店をつくった。

店の名前「KOKOKARA Hair」には、
心・身体・髪という意味が込められている。
それぞれが切り離されるものではなく、
つながっているという感覚。

ここには、何十年も通い続けるお客さんが多い。
幼い頃から知っている人の人生を、
長い時間をかけて見届けてきた。

「気づいたら、友達よりも会っている
関係になってたりするんですよね」

そう言って、少年のように笑う。

店では、自分のことも隠さず話す。

覚王山のおむすび店 角角然然の阿部浩貴さんが想いを語る様子


そうすることで生まれるのは、
家族とも友人とも違う、不思議な距離感だった。

「オーガニックに関心が高いお客さんが来てくれることも多いから、教えてもらうことも多いんですよ」

支える側でありながら、同時に支えられている。

その関係性の中で、仕事は少しずつ広がっていった。

「その人にとって必要なものを届けられたら、
それでいいかなって思ってます」

そう話す表情は、どこか穏やかだった。


結ぶための場所が、
かたちになっていった


覚王山駅近くにあるおむすび店 角角然然(かくかくしかじか)の外観

美容院で働くスタッフの多くは女性だった。

結婚や出産といったライフイベントを経て、
働き方が変わっていく現実。
立ち仕事で体力もいる仕事だからこそ、
その先にある未来を考えたとき、不安がよぎった。

「この先、50歳、60歳になっても、
彼女たちが働き続けられるのかなって、ふと思ったんですよね」

同時に、これまで見てきたお客さんの姿も重なった。

家庭に入り、自分のためにお金や時間を使うことを、

どこか遠慮しているような空気。

少し考えるように言葉を探した。

「そういう姿を見て、
何かできることがあるんじゃないかと思ったんです」

年齢を重ねても働ける場所。
子育て世代の女性が、無理なく関われる場所。
そして、おじいさんやおばあさん、
子どもたちも、自然と集まれる場所。

そのすべてを重ね合わせたとき、
浮かんできたのが「おむすび屋」というかたちだった。

食べる人にも、働く人にも
寄り添う場所として、構想が始まる。

減農薬で米をつくる
同級生の農家に声をかけ、専属契約へ。

子どもも大人も食べやすく、
身体にもやさしい味を目指して、
味噌ポタージュも生まれた。

さまざまな想いをつなぐように、
アイデアが少しずつ形になっていく。

覚王山の角角然然で提供される盛りだくさんのおむすびランチセット

ただ、理想通りに進むことばかりではなかった。

子育て世代や、おじいさんおばあさんも
自然と集まれる場所。
日々の暮らしに寄り添う場所。

そのコンセプトを、同じ温度感で
共有し続けていくことは簡単ではなかったという。

「みんな本当に頑張ってくれてたんですけど、

やっぱり、見えている景色には
少しずつ違いがあったのかもしれないですね」

少し言葉を選ぶように、間を置いた。

関わる人それぞれに、得意なことや
大切にしたいことがある。

お店が立ち上がったばかりの頃は、みんなで
手探りしながら進んでいた部分も少なくなかった。

ただ、この場所が何のためにあるのか。

角角然然(かくかくしかじか)入口前のおむすび看板

誰のための場所なのか。

その問いと向き合う中で、
阿部さん自身も大切にしたい軸がよりはっきりしていった。

そして、試行錯誤を重ねる中で、
そのコンセプトが店の空気や日々の営みの中にも
少しずつ表れるようになってきたという。

「続けていく中で、この場所に必要なことも少しずつ見えてきた気がします」

そう語る阿部さんは、やわらかく笑った。


見えていなかった背景に、
気づいていく


食材を扱うようになってから、
生産者のもとへ足を運ぶようになった。

どんな工程でつくられているのか。
どんな時間や手間がかかっているのか。

実際に目にすることで、
それまで見えていなかった背景が浮かび上がってくる。

「スーパーでも野菜を見た目だけで
選んじゃったりするじゃないですか。
でも、作る側は何百倍も手間かけてる。」

阿部さん自身も、
美容師として手を動かし続けてきた。
目の前の人に向き合い、手をかけて、
かたちにしていく仕事。

だからこそ、つくり手の工程や背景に触れたとき、
その重みが、少しわかる気がした。

角角然然を立ち上げた阿部浩貴さんへのインタビュー風景。

「ちゃんと知ると、
やっぱりリスペクトしかないなって思います」

そうやって背景を知るたびに、
当たり前に見えていたものの意味も、
少しずつ変わっていった。

「おにぎりじゃなくて、おむすび。
おむすびって、手と手を結ぶものなんですよね」

その言葉には、
人と人を結ぶという想いが、自然とにじんでいた。

「米って漢字も、お米ができるまで
八十八の手順があるから米っていうんですよ。
言葉ひとつとっても、すべてに意味があってすごく面白い」

そう話す表情からは、
純粋な興味や好奇心が伝わってくる。

けれど、そうした背景や意味の多くは、
表面的な情報のまま通り過ぎていく。

「古くからあるいいものが、
ちゃんと届いてない気がするんですよね」

もともとつながっていたはずのものが、
見えなくなっている。

そんな感覚が、どこかにあった。


文化を、今のかたちで活かしていく


覚王山・日泰寺の本堂前でひと休みする男性。

美容師として過ごした東京では、
古いものと新しいものが自然に共存しながら、
カルチャーとして残っていく風景があった。

一方で名古屋は、古くからあるものが、
少しずつ姿を消していくような印象がある。
若い世代と文化との距離も、少しずつ広がっている。

「なんか、もったいない感じがあるんですよね。
若い人たちにどう見せていくかで、変わってくる気がして」

ただ“残す”だけでは、続いていかないのかもしれない。
だからこそ、「活かす」ということが
必要なのだと感じている。

覚王山にあるおむすび専門店 角角然然の店舗外観。

覚王山という街には、
世代や価値観が自然と交差する空気がある。
若い人とお年寄りが同じ場所にいて、
日常の中で文化が混ざり合っている。

「こういう場所だからこそ、
うまくできるんじゃないかなって」

「若い世代に伝えるためには、
僕たちおじさんが、かっこよくあるべきだなと思ってます」

その言葉は冗談めいて聞こえながらも、
どこか芯のある響きを持っていた。

古くからあるものを、今のかたちで届けていく。
その積み重ねが、文化を続かせていくのかもしれない。


結び直していく、その先へ


名古屋・覚王山の角角然然 店内に立つ阿部浩貴さん。

働き方や農業、そして文化。
さまざまな領域に課題を感じている。

「なんとかならないのかな、
って思うことはたくさんありますね」

橋渡しのような役割を担いたいという思いもある。
けれど、それをすぐに形にできるわけではない。

「やりたいことはあるけど、
今はそこまで手が回らないというか」

そう言って、少し困ったように笑った。

それでも、できることから続けていく。

覚王山の角角然然(かくかくしかじか)の暖簾と店名ロゴ

これまでのつながり。
これから出会う人たち。

その一つひとつを大切にしながら、少しずつ。

人と人、ものとものを、結び直していくように。

どこかで誰かの暮らしや、
街の見え方に、そっと触れていく。

その営みはきっと、
この街の日常を、少しずつ変えていくのだろう。


阿部 浩貴(あべ ひろき)
美容師・オーガニックヘアサロン「KOKOKARA Hair」代表。2024年、覚王山におむすび屋「角角然然(かくかくしかじか)」をオープン。人と人、文化と暮らしを結び直す場づくりをテーマに、美容と食、それぞれの仕事を通して地域とのつながりを育んでいる。

角角然然 〒464-0821 愛知県名古屋市千種区末盛通1丁目15−2 壮苑覚王山 1F
Instagram: @__kakukaku.shikajika__

  • 記事を書いたライター
  • ライターの新着記事
Natsuki

名古屋在住20年以上。お酒とコーヒー、そして笑いのある日常を大切にしている。子育てをきっかけに、長く暮らしてきた名古屋の別の表情が見えるように。人の価値観に触れ、世界が広がる瞬間が好き。Tewatashiプロジェクトでは、名古屋の何気ない瞬間を拾い上げ、人と場所のつながりを表現していきたい。

  1. 角角然然・阿部浩貴さん ー 結び直していく、その先へ

  2. 名古屋の帽子工房「森安」・森安忠義さん ー “生きた帽子”とともに続いてきた時間

  3. カフェ・ド・豆田 – 名古屋の純喫茶記録

RELATED

PAGE TOP