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陽龍 ー 名古屋・黒川で54年。街に愛されたラーメン店が暖簾を下ろす

7月の平日のお昼前。

少し色あせた桃色のテントの下には、
今日も人が並んでいた。

地下鉄名城線・黒川駅から北へ歩いて10分ほど。
名古屋市北区・八代町にあるラーメン店「陽龍」。

「ここのラーメン、うまいんだよ。」

「俺はここしか食べないんだ。」

列に並ぶ人たちの何気ない会話が聞こえてくる。

いつもの昼の景色。
けれど、この日並んでいた人たちの中には、

「もう一度食べておこう。」

そんな思いで暖簾をくぐる人が、多かったはずだ。

陽龍は2026年7月31日、
54年間続いたこの場所での営業に一区切りを迎える。

店頭の案内によると、定期借家契約の満了に加え、
物価上昇などの影響もあり、
この場所での営業継続を断念したという。

長く続く店ほど、その積み重ねだけでは
越えられない時代になってきたのかもしれない。

最近、街を歩いていると、
そんな知らせを耳にすることが少し増えた。

店へ入ると、店主は今日も黙々とラーメンをつくっている。

湯気の立つ寸胴。

店内にはテレビの音が静かに流れ、
時間だけがゆっくりと進んでいく。

食べ終えた常連さんが、

「じゃあ、また来ます。」

そう声を掛けて店を出ていった。

きっと何十年も変わらず交わされてきた言葉なのだろう。


運ばれてきたのは、
大きなチャーシューが丼いっぱいを覆う特製ラーメン。

動物系の旨みが溶け込んだ
少し白濁した醤油スープに、中細のストレート麺。

飾らないシンプルな一杯が、昔から変わらずここにある。

テーブルには赤い唐辛子。

たっぷり振りかける。

そして、思わずむせる。


ラーメン一杯だけでは、この店は語れない。

学生の頃から通う人。

地元へ帰るたびに立ち寄る人。

そして、

「俺はここしか食べない。」

そう笑う常連さん。

ラーメンの味と一緒に、
それぞれの人生の時間も、
この店には積み重なっていた。

色あせた桃色のテント。

ほつれた暖簾。

壁に残る「ラーメン 陽龍」の文字。

年季の入った看板。

その姿は古びたというより、
この街で54年という時間を過ごしてきた証のように見えた。

店頭の案内には、

「新たに開店することがあればGoogleマップで案内します。」
と書かれている。

だから、陽龍という店が終わるわけではないのかもしれない。
またどこかで、この一杯に出会える日が来るかもしれない。

それでも、この町内で見慣れてきたこの景色は、
もうすぐ一区切りを迎える。

街は少しずつ変わっていく。

新しい店が生まれ、長く続いた店が静かに暖簾を下ろしていく。

そのたびに、街の風景も少しずつ姿を変えていく。

だから今日は、ラーメンを食べに来たというより、
この街の景色を、もう一度目に焼き付ける。


陽龍 〒462-0043 愛知県名古屋市北区八代町2丁目76

  • 記事を書いたライター
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T.hori

名古屋生まれ。 メルボルン、マニラを経て、約20年ぶりに地元へリターン。 街も、自分も、すこし変わっていて。 いまは、ローカルな手触りを探しているところ。 Tewatashi Projectでは、個人的で普遍的な地元の日常を、そっと切りとりたいです。

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