Local Stories and Daily Life from Nagoya
徳川公設市場の奥、「麺家りつ」できしめんをすするローカルな昼

東区・徳川町の住宅街に、今も残る
「徳川公設市場」。
大正14年にできた歴史ある市場で、
名古屋に残る公設市場の中でも、
いまも生活に根ざした空気を残している、
少し珍しい存在だ。
まわりには落ち着いた住宅街や、
昔からの邸宅も多い。


東区らしい上品さが漂う一方で、
市場の中には、昔ながらの雑多な空気も
ちゃんと残っている。
八百屋の箱。
少し湿った床。
魚屋から漂う匂い。
人の声。
行き交う台車。

少し雑踏感の残る景色が、
この市場にはちゃんと似合っている。
そんな市場の奥の角に、
オレンジ色の暖簾が見えてくる。
「麺家りつ」。
以前は老舗のうどん屋があった場所。
コロナ禍で店を閉じ、
そのあとを受け継ぐように
始まった店だという。

券売機で食券を買って、
カウンターへ渡す。
好きな席へ座り、
なんとなく市場の空気を眺めながら待つ。
おかみさんと、
パートの女性だろうか。
手際よく、でもどこかやわらかい空気で
店が回っている。
少しして、きしめんが運ばれてきた。
勝手に思い浮かべていた、
昔ながらの立ち食いの一杯とは
少し違った。
綺麗な器。
澄んだ出汁。

きしめんは、
注文が入ってから茹でる。
ゆで置きではない。
箸で持ち上げると、
麺がひらひらとおつゆの中で踊る。
紙みたいに薄い。
駅のホームで食べるきしめんとは、
まったく別物だった。

つるつるとした食感と、やさしい甘み。
出汁の香りも綺麗で、
するすると入っていく。
麺を少し泳がせながら、
おつゆを絡めて食べるのが妙にうまい。
中華そばもいい。
喉ごしのいい麺に、深みのある出汁。
こちらも市場の中の一杯とは思えないくらい、
どこか品がある。
カレー中華は、
出汁の効いた少しピリ辛のカレーが絶妙で、
硬めの中華麺によく絡む。


気取っていないのに、
しっかり美味しい。
市場の匂い。
人の声。
古いタイル。
使い込まれた壁。
そんな積み重なった時間の中で、
みんな麺をすすっている。
味だけじゃなく、
こういう空気を食べに来ている人も
多いのかもしれない。

食べ終わったあと、
市場を少し歩く。
少し胸を躍らせながら、
昔の景色をなぞるように。
魚屋をのぞいたり、
八百屋を見たり。



なんとなく歩いているだけなのに、
この地区の日常に少し混ざれた気がする。
食べて、歩いて、買い物して。
ほんの短い時間なのに、
少し旅をしたような感覚が残る。

市場の匂い。
人の声。
きしめんを啜る音。
そんな余韻が、
しばらく身体に残っていた。