Local Stories and Daily Life from Nagoya
名工大生に愛された定食屋「どんぶり亭」の卒業

昭和区北山本町。
名古屋工業大学の近くにある
定食屋「どんぶり亭」が、
2026年5月29日の昼営業を最後に幕を閉じた。
最寄りは吹上駅だろうか。
荒畑駅だろうか。
どちらから歩いても、
少し距離がある。
大学の裏手に広がる住宅街。
知らなければ、
なかなか辿り着かない場所だ。
その交差点に、
妙に細い建物が立っている。
初めて見たときは、
思わず「細っ」と声が出た。
大丈夫なんだろうか。
少し心配になるくらい細い。

名工大生ではない。
この辺りに住んでいたわけでもない。
それでも今日は、
少しだけOB気分になって暖簾をくぐる。
壁いっぱいのメニュー。
豚キムチ。
ブタサラ。
トリピリ丼。
焼きそば。
もやし炒め。
どれも学生たちが白飯をかき込んできた景色が浮かぶ。
少しだけ常連になった気分で、
豚キムチを頼んだ。



店の中は狭い。
肩が触れそうな距離で、
人が行き交う。
壁紙。
貼り紙。
年季の入った備品。
差し込む昼の光。
豚キムチの香り。
学生たちの声。
その全部が、
この店の空気になっていた。


学生や常連さんたちが、
次々と入ってくる。
「お疲れ様でした」
そう声をかける人もいる。
手土産を持ってくる人もいる。
それぞれに、
思い出があるのだろう。
昔は米を扱う仕事をしていたそうだ。
だから米をたくさん食べてもらえる場所を。
そうして始まったのが、
どんぶり亭だったという。


建物は近いうちに
取り壊されるという。
それでも店主さんは、
驚くほどあっさりしていた。
「俺も卒業。」
そう言って笑う。
長年続けた店の最終日とは
思えないほど潔い。

店を出て、
大学の周辺を少し歩いた。
住宅街の道を、
学生たちが歩いている。
その景色を見ながら、
自分の大学時代を思い出していた。
よく通った店。
何度も歩いた道。
当たり前だった景色。
そんなものほど、
大人になってから懐かしくなる。
名工大生ではない。


それでも今日は、
少しだけ気持ちを重ねてしまった。
「俺も卒業。」
その言葉が、
妙に心に残っている。
卒業おめでとうございます。
そして、
お疲れ様でした。