Local Stories and Daily Life from Nagoya
名古屋・八龍の味噌バターラーメン – 25年間通い続ける男の偏愛

名古屋に、八龍(はちりゅう)というラーメン屋がある。
味噌ラーメンで知られ、長年地元で愛されてきた店だ。
その八龍に、25年ほど通い続けている男がいる。
僕の友人だ。
学生時代に初めて食べて以来、
すっかりその味に取り憑かれてしまったらしい。
社会人になり、ルート営業をしていた頃には、
週に3、4回も昼ごはんを食べに通っていたという。
週に4回。
もはや仕事のルートに八龍が組み込まれていたのではないか。
25年間、八龍の味噌バターラーメン。

八龍のラーメンは、実にシンプルだ。
味噌、醤油、塩。
そこにバターやチャーシューを追加できる。
中太のストレート麺に、脂身の少ないチャーシュー。
派手さはないが、まっすぐなラーメンだ。
彼が注文するのは、決まって味噌バター。
そしてライス。
この組み合わせは、長年ほとんど変わっていない。
八龍には中警察署の近くの千代田店や松原店があり、
彼は主にその2店舗に通っている。
醤油も塩も美味しいという。
もちろん、違うものを頼んでみようと思うこともあるらしい。
しかし、いざ注文となれば味噌バター。
25年もあれば、人の好みはずいぶん変わる。
それでも、彼の注文は変わらない。
「後悔したくない」
食べながら、すでに次の一杯を考えている。

「最初の一口が、とにかくうまいんだよね」
濃厚な味噌の旨み。バターが溶け込んだスープ。
そこに中太のストレート麺が絡む。
そして、八龍の味噌ラーメンには不思議な特徴があるという。
「食べれば食べるほど、うまくなる」
一口目が最高なのに、二口目、三口目と食べ進めるうちに、
さらに美味しくなっていく。
彼の説明には、いまいち理屈がない。
ただ、とにかくうまいらしい。

「食べている途中から、なくなっていくのが寂しくなるんだよね」
まだ食べているのに、すでに喪失感が始まっている。
そして、次はいつ来ようかと考え始める。
次は何を頼もうか。
醤油もいいかもしれない。塩も気になる。
もっとも、次も味噌バターを頼むことは決まっている
昼の八龍には、同志がいる。

昼どきの八龍は、ちょっとした儀式のようだ。
白いワイシャツ姿のサラリーマンたち。
仕事の合間にやってきたであろう男たちが、カウンターに並んでいる。
目の前には、味噌ラーメン。
少し汗をかきながら、一心不乱に麺をすする。
ちなみに店には、11時半から13時半まで、
お子様連れのお客様の入店をご遠慮いただく旨の貼り紙がある。
昼の八龍は、なかなかの真剣勝負である。
まあ、それもご愛嬌。
彼によれば、店内の8割か9割は
味噌ラーメンを食べているように見えるという。
もちろん、正確に数えたわけではない。
ただ、彼にはわかるらしい。
この人たちも、きっと同じようにハマっている。

そんな男たちが、昼休みになると八龍に集まってくる。
誰もが黙々と麺をすすり、スープを飲む。
彼は、その姿を美しいとさえ感じるという。
最後は、味噌おじやで。

麺を食べ終えても、彼の食事はまだ終わらない。
残ったスープに、ライスを入れる。
味噌おじやである。
濃厚な味噌のスープに、ごはんを浸す。
バターのコクも加わったその一口を、最後までかき込む。
これが、彼にとっての至福の時間らしい。
麺がなくなり、ごはんもなくなる。
そして、ついに食べ終わってしまう。
満腹感と、喪失感。
おそらく、普通の人より少し大きな喪失感だ。
それでも、彼は満足そうに店を出る。


最近では、名物マスターに代わって、
お孫さんだろうか、若い男性が厨房に立っている。
これなら、あと何十年かは八龍の味噌ラーメンを食べられそうだ。
彼にとって、これほど心強いことはない。
そして今日も、満腹感と少しの喪失感を抱えながら、
午後の仕事へと戻っていく。
きっと頭の片隅では、次の味噌バターのことを考えている。
八龍 千代田店 愛知県名古屋市中区千代田2丁目2−21