Local Stories and Daily Life from Nagoya
葡瑠梵(ブルボン)– 名古屋純喫茶記録クラブ

地下鉄鶴舞線・川名駅から歩いて5分ほど。
駒方中学校や法音寺の近くに、
喫茶店「葡瑠梵(ブルボン)」はある。
訪れたのは、雨の降る日だった。
大きく掲げられた「葡瑠梵」の文字。
なかなかの存在感である。
初めて見る店名なのに、どこか懐かしい。
こういう喫茶店には、つい吸い寄せられてしまう。
店に入る前から、少し心が弾んだ。

店内でまず目に入ったのは、
エジプトの壁画を思わせる模様の壁紙。
一部には石のタイルが使われ、
なかなか重厚な雰囲気だ。
喫茶店に来たはずなのに、
ちょっとした異国気分である。
店内にはオーケストラのような音楽が流れ、
開け放たれた扉からは雨音が聞こえてくる。
ときどき、通りを走る車の音も混じる。
いろんな音がしているのに、
不思議と静かで、落ち着く。

「アジア大会って、いつまでかね」
常連さんにそう尋ねたのは、
この店を始めた初代。
今も店に立ち、
なじみのお客さんと言葉を交わしている。
どうやら、アジア大会の日程が気になるらしい。
そんな何気ない会話を聞きながら、
店内を見渡してみる。
壁には、子どもが描いたかわいらしい絵。
きちんと額に入れて飾られている。
あちこちには花も置かれ、
窓にかかる薄紫色のカーテンからは、
やわらかな光が差し込んでいる。
妙にしっくりくる。

現在、店を継いでいるのは、
初代の娘・智子さん。
いつからお店を始めたのか尋ねると、
「いつからだっけ?」
智子さんが初代に声をかける。
「49年前」
すぐに答えが返ってきた。
どうやら、創業年については
お父さんに聞くのがいちばん早いらしい。
葡瑠梵がこの場所で始まったのは、
1977年。
「全部、その頃のままだよ!」
智子さんが教えてくれた。
なるほど。
この壁紙も、石のタイルも、49年選手というわけだ。
ちなみに、「葡瑠梵」という名前。
初代が修業していた喫茶店の「葡瑠」の文字を受け継ぎ、
「葡瑠梵」と名づけたそうだ。
当時は、喫茶店の名前に漢字を当てるのが
流行っていたらしい。

今は智子さんの息子さんも広報を担当し、
三世代で店を支えている。
「SNSは大事だよ」
そんな息子さんの言葉をきっかけに、
お店の様子を発信するようになったという。
そして土曜日は、智子さんの腕の見せどころ。
その名も「智子のランチ」。
毎週メニューが変わる、数量限定のお楽しみだ。
49年前の壁紙はそのままに、
SNSもあれば、週替わりのランチもある。
昔ながらの喫茶店も、なかなか忙しい。
それでも、店に流れる時間は
どこかのんびりしている。

そろそろ店を出ようとしたとき、
智子さんが声をかけてくれた。
「マッチ、あげる」
手渡してくれたのは、
葡瑠梵の名前が入った小さなマッチ箱。
昔ながらの喫茶店らしいかわいいマッチ。
なんだか、ちょっと得した気分だ。
手のひらにのせて、しばらく眺める。
開け放たれた扉の向こうでは、
まだ雨が降っていた。
今度は土曜日に来てみようかな。
もちろん、お目当ては「智子のランチ」である。