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カルチャー

これしか頼まない: Vol.1 八龍の味噌バターラーメンと白ごはん

「八龍、やっぱ最高だな。」

そう呟きながら、数ヶ月ぶりに松原店ののれんをくぐった瞬間。
常連の笹田さんと店員さんの目が合う。
言葉はないけれど、お互いに「あっ、久しぶり」の顔になる。
ただそれだけで、少しうれしい。


名古屋・松原にあるラーメン専門店「八龍」の入り口。赤いのれんをくぐって入店する常連の姿。

笹田さんにとって、八龍は“ととのう場所”だ。

「以前、ルート営業してた頃は週に3〜4回来てたからね。」

その言葉とともに、
まだ席に着く前にすっと一言。

「味噌バター、白ごはんも。」

うなずくだけで、注文は完了している。

八龍の味噌バターラーメン

八龍には、塩ラーメンも醤油ラーメンもある。
でも笹田さんにとっては“味噌一択”。

「味噌頼まないと、後悔するやつだから。」

バターのコク、もやしのシャキシャキ感、チャーシューの香ばしさ。
それをごはんにのせて頬ばる――この組み合わせこそ、笹田流の“至福の方程式”。

「まずは半分、ごはんにチャーシューと麺をのせて。
あとは、残ったスープでおじやにするんだよ。」

食べ方まで完全に決まっている。
もう“型”として身体に染みついているような感じだ。

八龍の味噌ラーメンを食べ終えたあと、残ったスープに白ごはんを投入する瞬間。〆のおじやに向かう、静かな儀式の一コマ。

「最近は家族でも来るようになったけど、ピークの時間帯は避けるようにしてる。
子ども連れだと、味に集中できないからね。」

店内はスーツ姿の常連も多く、
一見すると静かな“おひとりさま”の聖地のようでもある。
でも、タイミングさえ選べば、子連れでもちゃんと迎えてくれる。
最初に家族で来たときは、きちんと電話で確認した。

「このラーメンは、食べれば食べるほど味が深まるんだよ。
最後のひとくちが、一番うまい。」

スープを味わい、静かに満たされる笹田さんの表情。八龍での“これしか頼まない”時間のひとコマ。

そう言いながら、スープの最後の一滴まで、迷いなく飲み干す。

他にもメニューはある。笹田さんは、こう言って笑う。

「でも、これしか頼まないんだよね。」

その笑顔に、すべてが詰まっていた。

ひとつのラーメンとごはんが、ここまで“自分のかたち”になるって、
みんなあるよね。そんな一杯。

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Taro Hori

名古屋生まれ。 メルボルン、マニラを経て、約20年ぶりに地元へリターン。 街も、自分も、すこし変わっていて。 いまは、ローカルな手触りを探しているところ。 Tewatashi Projectでは、ハイパーローカルな日常を、そっと切りとりたいです。

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