Local Stories and Daily Life from Nagoya
千種の純喫茶「喫茶らん」閉店|ひかえめな記録 Vol.4

初夏のある日、ランニングの途中。
千種区の高見交差点から名古屋市立大学医学部附属東部医療センターへ向かう途中に、ふと目を向けた先。
いつもの場所にあるはずの「喫茶らん」のシャッターが閉まり、看板もなくなっていた。
あれ?最近やってなかったけど……、思いながら立ち止まる。どうやら、ひっそりと店を閉めたようだった。
コロナ禍に名古屋に戻ったとき、「名古屋的なことがしたい」と思って探しあてた店。モーニング目当てに何度か通った、「ザ・純喫茶」と言いたくなる場所だった。

創業60年ほど。インテリアから漂うにおいも、すべてが昭和の空気をまとっていて、まるで時代が置いていった文化財のような空間。
地元のおじいさんやおばあさんたちが、雑誌をめくりながら井戸端会議をして、テレビを見たり、タバコを吸ったり、そんな風景が日常に溶け込んでいた。



店主のお母さんは、入ると自然と会話が始まるような方で、いつもあたたかく迎えてくれた。
令和の時代に、あそこには確かに、別の時間が流れていた。ただただ、心地よかった。

そんな空気が、またひとつ名古屋の街から消えていく。
でもきっと、どこかでまた、なにか新しいものが生まれていく。
そんな循環のなかにいるはずなのに、いまはただ、
「ああ、もう一度行っておけばよかったな」と、少し苦い気持ちだけが残っている。

その苦味は、喫茶らんで飲むコーヒーの渋みとは違う、
少しだけ心に残る、後ろ髪をひかれるような味だった。
別に、駆け足で誰かに伝えにいくことでもない。
きっと一緒にたまに通った友達も、どこかで気づいてるんだろう。
それぞれがそれぞれに日常として消化して、また明日がくる。