Local Stories and Daily Life from Nagoya
ひかえめな記録: Vol.1|ナイターの匂いと、声をかけない夜

五月下旬。
この日は、次男の野球クラス。ナイターだった。
場所は名古屋・北区の楠公園。
たまにだけある夜の特別練習。


雨が続いていた週で、この日も昼過ぎまで小雨が残っていた。
夕方になってようやく空が落ち着き、
グラウンドには水たまりがいくつか残っている。
湿った空気。濃いブルーの空。
点灯したナイター照明が、夜を切り取る。

草木が濡れているせいか、いつもより匂いが濃い。
生ぬるい風にのって、土と葉の香りが混じってくる。
静けさの中で、ボールがミットにおさまる音だけがくっきり響く。

「打て、打て!」って、本当は声を出したい。
でも、ぐっとこらえる。
ベンチの端で立ったり座ったりしながら、ただ黙って見ている。
バットが空を切る。打てなかった。
悔しそうな顔で戻ってくる次男。
言葉をかけたい気持ちはある。でも、声にはしない。
「悔しいよな。でも、それでいい。次にいかせよ。」
目が合った瞬間に、少しだけうなずく。
それだけ。

子どもは少しずつ、親の手の届かないところへ進んでいく。
親はその手前で、静かに見守るだけ。
照明の光、湿ったグラウンド、響く声と音。
季節は進み、時間は流れていく。
子どもたちは、それぞれのペースで大きくなっていく。
