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ひかえめな記録: Vol.1|ナイターの匂いと、声をかけない夜

五月下旬。
この日は、次男の野球クラス。ナイターだった。
場所は名古屋・北区の楠公園。
たまにだけある夜の特別練習。

ナイター照明の下、グラウンドを駆ける少年。湿った地面と夕空のコントラストが残る、名古屋・楠公園の一瞬。
野球道具を抱えたふたりの少年が、ナイター照明に照らされるグラウンドを静かに見つめている、雨上がりの夕暮れ。

雨が続いていた週で、この日も昼過ぎまで小雨が残っていた。
夕方になってようやく空が落ち着き、
グラウンドには水たまりがいくつか残っている。

湿った空気。濃いブルーの空。
点灯したナイター照明が、夜を切り取る。

グラウンドを横切る子どもたちの列。照明と夕空が淡く重なり合う、名古屋・楠公園のナイター前の時間。

草木が濡れているせいか、いつもより匂いが濃い。
生ぬるい風にのって、土と葉の香りが混じってくる。
静けさの中で、ボールがミットにおさまる音だけがくっきり響く。

「打て、打て!」って、本当は声を出したい。
でも、ぐっとこらえる。
ベンチの端で立ったり座ったりしながら、ただ黙って見ている。

バットが空を切る。打てなかった。
悔しそうな顔で戻ってくる次男。
言葉をかけたい気持ちはある。でも、声にはしない。

「悔しいよな。でも、それでいい。次にいかせよ。」

目が合った瞬間に、少しだけうなずく。
それだけ。

フェンス越しにグラウンドを見守る親の後ろ姿。照明の灯りが照らす中、静かに流れる夜の野球練習。

子どもは少しずつ、親の手の届かないところへ進んでいく。
親はその手前で、静かに見守るだけ。

照明の光、湿ったグラウンド、響く声と音。
季節は進み、時間は流れていく。
子どもたちは、それぞれのペースで大きくなっていく。

ナイター練習後の整備時間。照明の下、静かにグラウンドを整える子どもたち。終わりに近づく夜の静けさ。

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Taro Hori

名古屋生まれ。 メルボルン、マニラを経て、約20年ぶりに地元へリターン。 街も、自分も、すこし変わっていて。 いまは、ローカルな手触りを探しているところ。 Tewatashi Projectでは、ハイパーローカルな日常を、そっと切りとりたいです。

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