名古屋の街を、そっと記録する。

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カルチャー

名古屋純喫茶記録クラブ – 梵樹瑠(ボンジュール)

「昔からそこにある喫茶店」は、
どんな街の流れを見てきたのだろう。

名古屋純喫茶記録クラブは、
名古屋の街にひっそりと佇む喫茶店を、
いまのうちにそっと記録しておく、
そんな勝手な活動です。

特別なことはしません。
扉を開けて、座って、
出てくるコーヒーを飲むだけ。

その時間を、
少しだけ残します。

名東区・引山バスターミナルの近く。

大通りから一本入ると、
急に時間の歩幅がゆるやかになる。

そんな風景の中に、
昭和の喫茶店らしい、
どこか異国をまねたような外観の喫茶店
「梵樹瑠」があった。

店先の看板は、ところどころ文字が消えかけている。
それだけで、この場所に長く立ち続けてきたことが、
はっきりと伝わってくる。

——なんて読むんだろう。

看板を見ながら、扉を開ける。

中に入ると、そこには昔ながらの空気がそのまま残っていた。

レトロなテーブルと椅子。ずらりと並ぶ少年雑誌と漫画本。
競馬のぬいぐるみ、招き猫、お姫様のドレスの置き物。

どれも統一感なんてないのに、不思議としっくりくる。

初めてのお店には、いつも少しだけ緊張する。

それなのに、この空間はすぐに心をほどいてくれた。

店内に流れるBGMは、少しポップで今風の曲。
ちぐはぐした感じに、このお店のおもしろさを感じる。

キッチンから聞こえるお皿の触れ合う音。
お客さん同士の何気ない会話。

そして、小さな窓から差し込むやわらかな光。

コーヒーをひとくち含むたび、
自然と視線が店内を巡る。

長年この場所を守ってきたであろう2人の佇まいが、
この空間そのもののように穏やかだった。

「この店は、40年くらいになるかな」

何気なく語られるその数字の重み。

昔は朝と昼、二回来るお客さんも多かったという。
街に住む人にとって、このお店はきっと生活の一部だった。

バブルが弾け、時代が変わり、人の流れも変わった。

「経営?大変だわ。そんなに儲からんよ。」

いたずらっぽく笑いながら、マスターは答える。

店の読み方を尋ねると、
梵樹瑠(ボンジュール)だと教えてくれた。

「昔は当て字が流行っとったんだて。」

「適当だわ。」

そのさっぱりとした言い方に、
思わずこちらも笑ってしまう。

文字の消えかけた看板を振り返りながら、
またここでコーヒーを飲む自分を思い浮かべた。

名東区の住宅街で、
今日も「ぼんじゅーる」と言っているようだった。


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Natsuki

名古屋在住20年以上。お酒とコーヒー、そして笑いのある日常を大切にしている。子育てをきっかけに、長く暮らしてきた名古屋の別の表情が見えるように。人の価値観に触れ、世界が広がる瞬間が好き。Tewatashiプロジェクトでは、名古屋の何気ない瞬間を拾い上げ、人と場所のつながりを表現していきたい。

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