名古屋の街を、そっと記録する。

CATEGORY

カテゴリー

Local Stories and Daily Life from Nagoya

Kotonoha

Ras Taro ─ レゲエとともにある「分けない」感覚

 

You & I じゃなくて、I & I
あなたも私も、ひとつである

Ras Taro

「分けない」ことは、
生きてきた時間の中で自然と身についていった感覚だった。

日本とスペインで育ち、
21歳でフィリピンへ渡った有本太郎さん。
Ras Taroとして活動するレゲエアーティストMC。

マニラで毎週日曜に開かれる
レゲエイベント「IRIE SUNDAY」。

その中心に立ち続け、
日本語・スペイン語・英語・タガログ語を行き来しながら、
音と言葉で場をひとつにしてきた。

いまは名古屋を拠点に、
各地でつながった仲間たちと音を鳴らしている。

長く伸びたドレッドヘア。
静かな眼差し。

レコードに触れるその手つきからは、
音を鳴らすことを越えて、
人と場を結び続けてきた時間が、
静かににじんでいる。


Kotonohaのロゴ
名古屋の自然の中に立つレゲエアーティストRas Taro

言葉をすくい取り、手渡していく──
Kotonohaでは、
名古屋に息づく人の声や温度を通して、街の輪郭を静かに描いていきます。

今回は、日本とスペインで育ち、
フィリピンへ渡ったレゲエアーティストMC、Ras Taro。

クラシックギターから音楽人生を始め、
レゲエに深くのめり込みながら活動の場を広げ、
各地で音の場をつくり続けてきた。

いまはこの街で、音を鳴らしている。

You & I ではなく、I & I。
分けない、という感覚。

Ras Taroの言葉を通して、
この街に重なるひとつの生き方が、
静かに浮かびあがる。


いくつもの土地を経て、ひとつの感覚が残った。


奈良県天理市。
父は天理大学でスペイン文学を教え、
母はマドリード出身のスペイン人。

宗教が日常の風景としてそこにある街で、Ras taroさんは生まれた。

街のあちこちに点在する宗教施設。
人と人が自然に助け合う空気が、
生活の中にあったという。

ターンテーブルの前でレコードに触れるRas Taro

「母親はカトリックだったから、
子どもの頃は“神様っていっぱいいるな”って思ってたんだよね」

天理では、神殿の掃除も日常の一部だった。
雑巾掛けをしながら、
お祈りの歌を口ずさんでいたという。

そう言って、今も覚えているその歌を
そっと口にしてくれた。
幼い頃の記憶は、
今も身体の中に息づいているようだった。

5歳で天理を離れたあと、
父の仕事の都合でスペインの首都マドリードと
日本を行き来する生活が始まる。
中学生から大学までは名古屋・八事で過ごした。

名古屋の中でも自然の多いエリアである八事。

高校時代に犬の散歩でよく歩いた
東山テニスセンター裏山のユーカリ畑を、
今も変わらず訪れるという。

「住宅街のすぐそばに、
 こんな静かな場所があることを意外と
 みんな知らないんだよ。」

「でも娘はちょっと怖いって言うんだよね。
 本当は一緒に来たいけど。」

そう言って、視線を落としながら静かに笑った。

木々に囲まれた場所で佇むRas Taroのポートレート

自然の中に身を置く時間は、
彼にとって整う感覚そのものだった。

暮らしてきた場所も、
身を置いてきた文化も違っていた。
けれど、“整える”“清める”という感覚は、
静かにつながり続けてきた。


軸が定まった、レゲエとの出会い


18歳の頃にジャマイカに渡っていた先輩の影響で、
レゲエの音と、その背景にある文化に出会う。

「レゲエってスピリチュアルな
メッセージ性も強くて、
それが幼い頃から近くにあった感覚と、
自然につながっていったんだよね」

その出会いは、彼の生き方の輪郭を
少しずつはっきりさせていった。

21歳のとき、
母に勧められて訪れたのがフィリピンだった。
自ら望んだものではなく、
“流れで”行くことになったという。

言葉も通じず、文化も違う。
思うように動けない日々に、

「最初はフィリピンが大嫌いだったよ」
と、Ras taroさんは困ったように笑った。

それでも、音楽を通して自然と人とつながっていった。

フィリピンで出会った
仲間たちとともに立ち上げたのが、
レゲエイベントIRIE SUNDAY(アイリー・サンデー)だ。

クラブでマイクを握るRas TaroのライブシーンとIRIE SUNDAYのクラブイベントでDJと観客が集う様子

毎週日曜日。
音楽を楽しむために、
人が自然と集まる場所。

「教会みたいな感覚だったかもしれないね。
毎週来る人もいれば、ふらっと立ち寄る人もいる」

もともとはギターを弾いていたRas taroさん。
名古屋の友人がIRIE SUNDAYに出演したとき、
急きょMCが必要になり、マイクを握ることになった。

「最初は正直、嫌だった。
MCいる?って思ってたし。」

消極的な始まりだったが、
この経験をきっかけにIRIE SUNDAYで
毎週MCを担うことになる。

自分の言葉と音が重なるたびに
場がひとつになっていく感覚が、
彼の心を動かした。

IRIE SUNDAYは週を重ねるごとに人が増え、
マニラのレゲエカルチャーを象徴する場所へと育っていった。

2週間の滞在予定だったフィリピンでの生活は、
気づけば18年に伸びていた。

その流れの中で、

仲間とともにマニラのアンダーグラウンドを
象徴するクラブBlack Marketの運営にも
関わるようになり、活動は少しずつ広がっていった。

レコードショップでレコードを手にするRas Taro
熱気に包まれたレゲエイベントのフロア風景

「大変なことばっかりだったけどね」

「でも、自分のバイブスが伝わって、
それがまた返ってくる瞬間が一番幸せだった」

懐かしむように、柔らかな表情で語った。

レゲエの文化 ― ラスタファリズム。
彼の軸になっていった思想だ。

そこで出会った言葉がある。

I&I(アイ・アンド・アイ)。

「You&Iじゃなくて、I&I。
自分を愛するように、相手も愛すること」

それは思想というより、
人と関わるときの感覚だった。

分けないこと。線を引かないこと。

彼はそれを、
マイクの上でも日常の中でも生きてきた。

長く伸びたドレッドヘアも、
主張のためのものではない。
髪は“アンテナ”のようなものだと
彼は捉えている。

人との縁を引き寄せ、
見えないものとつながるためのもの。

「髪の毛も、自分の大切な一部だからね」

そう話しながら、指先でドレッドをなぞった。

ドレッドは、彼が選び続けてきた在り方が、
そのまま身体に残ったものだった。


豊かさの中に、線が引かれていた


パートナーとの間に子どもが生まれ、
そしてコロナをきっかけに、
18年過ごしたフィリピンを離れて名古屋へ戻ってきた。

娘に日本語を教えたい。
ルーツのある土地で育てたい。
そんな思いもあった。

音楽に触れられる場所も情報も多い日本。
確かに、環境としては整っていた。

けれど、そこには見えない線もあった。

「ジャンルが多いのはいいことだと思う。
でも、“これだけが正解”って空気もあって」

見た目や雰囲気で距離を取られることもあった。

学生時代、ハーフの見た目から
「外国人だ」とからかわれることもあった。

その空気に縮こまり、
一歩引いた場所に身を置いていたという。

けれどフィリピンでの18年が、
その感覚をゆっくりとほどいていった。

「どう見られるかより、どう在るかを選んでる」

声の出し方。
言葉の間。
人との距離。

マイクを持つ立場だからこそ、
そのすべてが場の空気をつくることを、
彼は知っている。


音で、つないでいく


Ras taroさんにとって音楽はヒーリングだ。

「音って体に直接くるでしょ。
低音とか周波数とか。気づいたら呼吸が整って、
気持ちがほどけていく」

穏やかな表情で語った。

天理での清めの時間。
八事の自然の中で過ごす静けさ。
そしてフィリピンの熱気。

分断や対立が目立つ今だからこそ、
音のある場所に立ち続けていたいという。

いまは全国へと活動を少しずつ広げながら、
フィリピンの仲間たちも名古屋へ招き、
音の場をともにつくっている。

向こうで出会った仲間たち、
新しい仲間たちが
またこの街で交わる。

名古屋の緑の中を歩くRas Taro

「分けない」という感覚は、
言葉ではなく、場として広がっている。

音が鳴り、人が集い、
同じ振動を受け取り、
また日常へ戻っていく。

そのあいだに生まれた感覚が、
人と人を、静かにつないでいく。


Ras Taro
レゲエアーティスト/MC。日本とスペインで育ち、21歳でフィリピンへ渡る。マニラで毎週日曜に開催される伝説的レゲエイベント「IRIE SUNDAY」のメインMCとして長年活動し、フィリピン国内のフェスティバルをはじめ、アジア各国や日本のイベントにも出演。ジャマイカ大使館主催のBob Marley Songs Contestでの優勝をきっかけにジャマイカにも滞在するなど、現地カルチャーにも触れる。現在は名古屋を拠点に、日本、アジア各地で活動している。

  • 記事を書いたライター
  • ライターの新着記事
Natsuki

名古屋在住20年以上。お酒とコーヒー、そして笑いのある日常を大切にしている。子育てをきっかけに、長く暮らしてきた名古屋の別の表情が見えるように。人の価値観に触れ、世界が広がる瞬間が好き。Tewatashiプロジェクトでは、名古屋の何気ない瞬間を拾い上げ、人と場所のつながりを表現していきたい。

  1. Ras Taro ─ レゲエとともにある「分けない」感覚

  2. 「せんべろ元気」明山 聡一郎 ─ 「今池はおもちゃ箱」

RELATED

PAGE TOP